大学医局が診療報酬で認められた遠隔画像診断ではなく、NPO法人や株式会社の設立を選んだ理由

「大学医局の遠隔画像診断への参入 2000年代中頃〜」で述べたように、新臨床研修制度の開始をきっかけとして、多くの大学医局が遠隔画像診断に参入します。その多くがNPO法人や株式会社を設立して、遠隔画像診断の受け皿とするものです。

その当時には、すでに遠隔画像診断管理加算が診療報酬上認められており、基本的に特定機能病院である大学病院が受信側施設となれば、診療報酬でみとめられた遠隔画像診断をおこなうことが可能となります。しかし大学医局の多くはそれを選ばず、自らNPO法人や株式会社を設立して、遠隔画像診断の受け皿となることを選択します。

その理由は、遠隔画像診断の受信側が大学病院となり、送信側が遠隔画像診断管理加算を取得しようとする場合、施設基準の関係から大学病院の画像診断管理加算の施設基準の届け出の際に登録されたスタッフが読影を行う必要があります。ただでさえ診療や研究に追われている大学病院スタッフに、遠隔画像診断で依頼された他院の読影を行う余力はありません。また、大学や大学病院のスタッフはそう簡単には増員ができないうえに、大学や大学病院のスタッフの給与は低いために、医局が自らNPO法人や株式会社を設立して、遠隔画像診断の受け皿となり、そこに医局員を読影アルバイトに行かせる方が医局としては都合が良いためです。またNPO法人や株式会社の利益を医局に奨学寄付金として還元したり、研究会を共催させるなど、医局にとってメリットが非常に大きいからです。

おそらく厚生労働省は、「遠隔画像診断を診療報酬で評価したのだから、中核病院を受信側施設とした遠隔画像診断が普及していく」と考えたと思われますが、日本の大学および大学病院の構造的問題と組織の硬直性ゆえにそれほど拡大はせず、大学医局はより柔軟に運用が可能な、NPO法人や株式会社での遠隔画像診断支援サービスを選択しました。その際には、画像診断と医療行為との関係についてはそれほど考慮はされず、学会などもあるべき遠隔画像診断のありかたや方向性を打ち出すことが出来ませんでした。それにより、商用型の遠隔画像診断支援サービスが主力となって遠隔画像診断が広がっていくこととなります。

*診療報酬でみとめられた遠隔画像診断は、受信側の施設の要件として、画像診断管理加算を取得している特定機能病院、臨床研修指定病院、へき地医療拠点病院、へき地中核病院又はへき地医療支援病院となっており、保険医療機関内で行われることから医師法や医療法上の問題はおこりません。
*診療報酬でみとめられた遠隔画像診断であっても遠隔画像診断システムがクラウド型である場合は、設定次第によっては読影医は大学病院内のみならず自宅でも読影が可能となります。もし自宅など大学病院外で読影を行った場合は、医師法、医療法上の問題は同じように生じることになります。
*しかし、2018(平成30)年の診療報酬改定にて、ICTを活用した勤務場所に関する規定の緩和として、画像診断料、画像診断管理加算、病理診断料、病理診断管理加算について、保険医療機関において週24時間以上勤務する医師がICTを活用して勤務時間外の時間に自宅等で読影した場合も、院内での読影に準じて算定できることとなったため、それに該当する医師の場合は適切に届け出がなされていれば問題ないともいえます。医療提供施設以外での読影を例外的に認めたことになりますが、医師法、医療法の解釈との整合性についての議論はないようです。

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