遠隔画像診断ガイドラインの策定 2010年4月

日本放射線科専門医会・医会遠隔画像診断ワーキンググループ及び日本医学放射線学会電子情報委員会の共同で、遠隔画像診断ガイドラインが策定されます。その前文には以下のように記載されています。

 画像情報のデジタル化は画像診断の領域において大きな可能性を秘めている。その一方で、画像情報が従来の想定を超えて広がり、画像診断業務の形態が従来にはなかった方向へ向かう可能性がある。本ガイドラインは、そのような大きな変化の中にある遠隔画像診断が健全に発展することを目的として、日本放射線科専門医会・医会と日本医学放射線学会電子情報委員会との共同によって作成されたものである。

「画像情報が従来の想定を超えて広がり、画像診断業務の形態が従来にはなかった方向へ向かう可能性がある」はいったいどのようなことを指しているのでしょうか?

答えは遠隔画像診断ガイドライン発表同日の読売新聞の報道に示されています

読売新聞
2010年4月6日14時42分配信

医師不足などの影響で、患者の検査画像の診断をインターネットを利用して外部に依頼する医療機関が増えるなか、一部では格安サービスをうたい中国の医師への委託も始まっている。これに対し、放射線科医らで作る日本医学放射線学会などは、診断は日本の医師免許を持つ者が行わねばならないとの指針を作成。8日から横浜市で開かれる学会でも議論になりそうだ。

こういった仕組みは遠隔画像診断と呼ばれ、病院や診療所で撮ったCT(コンピューター断層撮影法)やMRI(磁気共鳴画像)の画像を、放射線科医のいる施設などに送り、報告書を返信してもらう。

中国人医師による画像診断サービスを行っているのは「日本読影センター」(大阪府)。日本人医師によるサービスの傍ら、2008年に中国への依頼を始めた。CTなどの診断を外部に依頼した場合、日本国内では1件当たり3000円前後が相場なのに対し、700~900円で請け負う。結果は日本語に翻訳された報告書で依頼した医療機関に返送される。

現在は総合病院や診療所など8施設と契約して、月約800件を中国側に依頼。吉村英明社長は「契約している中国人放射線科医は約15人おり、診断力はあらかじめテストしている。ただし、日本の医師免許はないため、『参考所見』という位置づけ」と話す。

厚生労働省医事課は「最終的な診断は依頼した日本の医師が下すとすれば、医師法に触れるとは言えない」との見解だ。

しかし、日本医学放射線学会などは、診断の質や個人情報の安全が保証されない可能性を強く懸念。「画像診断は医療行為であり、医師でない者(外国の医師免許のみ有する者も含む)が行うことは日本の法規に違反する」などとする指針を昨年11月に作成した。江原茂・岩手医大教授は「実態は、業務として日常的に日本の医療の一部を請け負っている。知識や技量も不明で、診断の質が保証できない」と話す。

これに対し、吉村社長は「個人名は消すなど情報の取り扱いにも注意を払っている」などと学会の指針に異議を唱えており、同学会で議論になりそうだ。

国内のCT、MRIの合計数は約1万7000台と、人口当たり先進国中で最も多い。一方、専門医は5000人程度にすぎない。民間調査会社矢野経済研究所によると、遠隔画像診断を利用する医療機関は昨年、1944施設と、10年で8・2倍に増えた。業者も50前後に上るとみられる。

画像診断ガイドラインをひもとくと、最も重要と思われる点は上記記事にもあるように、ガイドラインの中の下記の段落と思われます。

(1)画像診断は医療行為である
画像診断は診断確定に重要な役割を果たし、さらに治療方針決定に大きく関わっている。とくに最近の精密な画像診断情報が診断や治療法の決定に果たす役割はますます大きくなってきている。画像診断のために必要なあらゆる情報を駆使し、それらの情報を活用できるのは医師のみであり、その行為は医師によってのみ行 われる医療行為である。医師でない者(外国の医師免許のみを有する者も含む)が行うことは、日本の法規に違反する行為である。

(2)画像診断は専門の医師によって行われることが望ましい医療行為である
画像診断の情報はあらゆる臨床医によって利用される重要な検査資料であるが、その情報は過去100年以上にわたる放射線診断学の膨大な専門的知識の蓄積が知識の基盤として存在している。その上、目覚しい情報技術革新の恩恵を受けて画像診断機器の発達も著しく、撮像した画像の解釈は複雑化し画像所見に基づく診断過程には、高度な知識とより高い専門性が要求される。そのような画像診断はこれを専門とする医師によって行われることが望ましい医療行為である。

つまり、「商用サービスとしての遠隔画像診断(=遠隔画像診断支援サービス)は主治医への助言・コンサルテーションであり、中国の医師が読影を行い参考意見を送付することに問題がない」とする読影会社側に対して、日本放射線科専門医会・医会及び日本医学放射線学会が「画像診断は医療行為であり、医師でない者(外国の医師免許のみ有する者も含む)が行うことは日本の法規に違反する」との意見を明らかにし、このような遠隔画像診断を排除しようとする目的が含まれていると言えるでしょう。

ただ、記事の中の厚生労働省の見解「最終的な診断は依頼した日本の医師が下すとすれば、医師法に触れるとは言えない」は、ガイドラインとは若干距離感を感じるコメントです。このあたりは別項で触れたいと思います。

この遠隔画像診断ガイドラインが発表されたためかどうかはわかりませんが、中国への読影委託はその後あまり話題にもならなくなります。

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