医用画像を遠隔地に電送する取り組みはかなり古くから試みられていましたが、普及するきっかけとなった一つの要因は、通信回線であるISDNの普及です。ISDNとはすべてがデジタル化された公衆回線電話網です。それまではアナログモデムを用いてデータ通信を行っていましたが、1988(昭和63)年当時の通信最高速度が14400bps=14.4Kbpsであり、回線の状態によってはさらに通信速度が低下しました。画質とスピードはファクシミリと同等と考えていただければ、医用画像の送受信にはいかにに不十分であるがかご理解いただけるでしょう。
ISDNはNTTから「INSネット64」「INSネット1500」という名称で1988(昭和63)年にサービスが開始されました。特に「INSネット64」は、64kbps×2という今からみれば考えられない低速ではありますが、ISDNの出現によりアナログモデムよりは一気に高速になりました。また、フルデジタル化により安定した通信速度でネットワークが利用できるようになりました。特に、1995(平成7)年に発売されたISDNターミナルアダプタMN128の登場により、ISDN回線の初期導入コストが大幅に下がり爆発的に普及します。
遠隔画像診断の黎明期は撮像された画像(フィルム)をスキャンあるいはフィルム出力用のビデオ信号をキャプチャして、TIFF(1986年開発)やJPEG(1992年開発)等の汎用画像フォーマットに変換した上で送信することが一般的で、JPEG開発以前はデータの圧縮なども行われていました。画像を送信するためにはスキャン(キャプチャ)、データ圧縮、転送、データ解凍、表示と手間と時間がかなりかかるもので、リアルタイムに遠隔画像診断を実際の臨床として行うのは非常に困難で、研究、実験といった色合いが強いものでした。
同時期にCT、MRIの画像診断機器も急速に普及、機能も向上し、撮像画像データはデジタルデータそのものであることから、フィルムのスキャンニング(あるいはビデオ信号のキャプチャ)といった手間を省いて、直接画像のデジタルデータ送信が可能となることより、遠隔画像診断の主なターゲットとなります。しかし初期においては撮像画像のデジタルデータフォーマットがバラバラで、画像表示にはそれぞれの専用ソフトウエアが必要になるなど、まだまだ遠隔画像診断を実臨床で快適に行うにはほど遠い状況でした。
そのような中で、1983(昭和58)年に医用画像の標準フォーマットであるDICOMの原型となるACR-NEMA規格が制定され、その後何回かの改訂の後に1993(平成5)年にDICOM規格が制定されるに至ります。それに伴い、DICOM画像を保存するPACSや表示するDICOM ビュワーもこぞって開発されるに至り、医用画像のフォーマットの統一とISDN回線の普及から、一気に遠隔画像診断が広がることとなります。
しかしそれでも当初はシステムの導入コストが高く、多くが行政からの補助金事業、あるいは研究としての遠隔画像診断で、僻地や離島の医療の質の向上をテーマとした研究、実験目的のものでした。よって、補助金や研究費が終了すると、せっかく実施されてきた遠隔画像診断も終了となることがほとんどでした。