コンピュータ支援診断(Computer-Aided Diagnosis, CAD)は1980年代より研究が本格化し、1998年にはマンモグラフィにおけるCADがFDAの認可を受けましたが、CADはそれほど大きな広がりを見せてきませんでした。その後更に進化したニューラルネットワークを利用した人工知能研究も1980年代から盛んになりますが、膨大な計算コストが問題となりブレークスルーには至らず、画像診断にも大きなインパクトをもたらすほどの成果はありませんでした。
ニューラルネットワークをさらに進化させたディープラーニングは2006(平成18)年に発表されますが、コンピュータのハード性能進歩、高速ネットワークの普及、CPUよりも単純な演算の並列処理に優れたGPUの低価格化により、ようやく2012(平成24)年頃から急速に研究が活発となり、第3次人工知能ブームが到来します。ディープラーニングは画像との親和性が特に高いため、医療分野においては放射線画像診断、病理診断がまずターゲットとなり、この分野でも急速に研究・開発が進むことになります。
2014(平成26)年に設立された米エンリティック社は胸部単純X線写真に特に力を入れた開発を行い、蓄積された画像データは1000万症例以上にのぼり、高い精度で異常検出部位、推定される病態を画像上に表示することが可能となります。近い将来胸部単純X線写真の診断補助ツールとして普及し、撮像装置と連携し撮像を行えば自動でAIで解析が行われ、結果が表示されるようになると思います。世界に目を向ければ、薬機法(旧薬事法)やそれに類似した法律などが存在しない国では、すでにそのような撮像機器は販売が行われています。
同じく、2014年に設立された日本発の企業であるエルピクセル(株)は、ディープラーニングを用いた脳動脈瘤検出ソフトウエアを開発し、放射線科医による単独読影と比較して、アルゴリズムの補助下での放射線科医の読影では脳動脈瘤の検出数は5~10%程度上昇すると報告しています。肺結節病変の検出等にもソフトウエアの開発に取り組んでいます。
AIが画像診断全般を置き換えるようになるのは一朝一夕ではなく、画像診断医が不要になるわけではありませんが、これら大量のデータ処理、病変検出の分野においては、すでに人間よりも明らかな優位性を持っており、特に大量の正常の中から異常を拾い上げるAIは検診など予防医学の分野では非常に有用と考えられます。画像診断医の不足が叫ばれる中、非常に有用な診断支援ツールと考えられます。
近年、検診画像をはじめとした予防医学の分野にも遠隔画像診断が用いられることが多くなっています。大量の画像を複数の施設から集約して効率的に読影業務を行う遠隔画像診断は、見落としの防止および診断の効率化は経営に直結しますので、AIとの親和性は極めて高く、医療機関に導入されるよりもより早期に導入されていくと考えられます。
すでに、(株)エムネスが開発した医療支援クラウドサービス「LOOKREC」では、Google社のクラウド基盤である Google Cloud Platform 上に遠隔画像診断・病理診断に対応したレポート、ビューワーが構築され、ユーザーは特殊なソフトウエアをインストールする必要なく、Google Chormeブラウザ上ですべての操作が可能となります。こちらを利用して大量の脳ドック画像が遠隔画像診断で診断されており、まだ研究段階ではありますが、AIによる動脈瘤検出ソフトウエアがクラウド上で構築、LOOKRECと連携し、レポート、ビューワーともシームレスに連携することで、読影医のサポートをすでに行っています。これにより実際、動脈瘤の見落としを防ぐことが可能となっています。
今後、遠隔画像診断をはじめとして、画像診断全般にAIの導入は加速度的に進み、画像診断医をサポートする必要不可欠なツールになると考えています。